「安東さんの身体を借りて、そこに居るんだね? 声からして君は女子?」
 口調は穏やかに、険しい表情(かお)で、御手洗は、彩花に乗り移った声の主に聞く。
『私はここに通っていた女子よ。そして、私は独りで寂しかった』
 静かにそう話す。
「ここで一人で居たね……。でも、もう自由だよ。だから、身体を返してくれないか? ところで、名前は?」
『今野祐美』
 御手洗は、鞄から何かを取り出して、お経を唱え始める。
『う…う…う…く…苦しい…』
 頭をかかえて、顔を歪め、その場に崩れる。
「やめて……。彩花から離れて……」
 私は、彩花の身体を抱き寄せ、背中をどんどんと叩いた。
『やめ…て…、それを…やめて』
「やめない! 君は成仏すべきだ!」
 御手洗は、数珠をじゃらじゃら鳴らしながら、唱え続ける。
『あう…う…う…い、苛められた…』
 お経が辛いのか、呻きながら、ぽつりと呟いた。
「苛めにあって、君は辛かったね。でも、その身体にいるのはやめて、そろそろ逝こう」
 じゃらじゃら数珠を鳴らし続けながら御手洗は言う。
「そうよ! お願いだから、この子の身体を返して?」
 私は、彩花の身体を揺らす。
「君はその身体を楽にしてあげて? 辛かった事も全て話して楽になるんだ。いいね?」
 御手洗は、ゆっくりとした口調で言う。
『今でも、苛めたあの二人が憎い! 謝っても、許しはしない!』
「だからって、彩花に乗り移るのは間違ってる! 関係ない人まで巻き込まないで!」