目的地に着いて、御手洗は呟いた。
 大きな鞄から、懐中電灯を取り出して、中を照らす。
「キャッ!」
 彩花は小さく悲鳴をあげて、私にしがみつく。
「大丈夫……。私がついてるから」
 私は、彩花を抱き締めた。
「安東さん、何か見えたかい?」
「鏡に血が……」
 震えながら、彩花は、鏡を指差した。
 鏡に懐中電灯を向けると、ヒビが入って、ベッタリと血糊が着いてあった。
「やはり、ここで、事件があったんだな」
 御手洗は、トイレの個室を開けて、中を照らす。
 と、その時だった。
 ゴゴゴ…とすざましい音がして、水が流れ始めた。
―……しい……


 呻き声がしてくる。
―くるし…い…
 今度は、先程よりはっきりと呻き声が聞こえ、手洗い場の蛇口が捻られ、中から、赤茶色い液体が、流れてきた。
「そこに居るんだね? 大丈夫。僕たちは、君に何もしないからね」
 御手洗が宥める。
―助け…て…
「ここから、出たいだろう?」
 優しい口調で、御手洗は、問い掛ける。
『苦しか…った…』
 彩花と、もう一人の声が重なって聞こえている。