『やっぱり、そうよね。仕方ないわ。本当はこんな事したくないんだけど、貴女にも篠原さんと同じ気分を味合わせてあげるわ』
 祐美はそう言うなり、野田さんのスーツの襟元を掴むと、さび付いた便器の中に顔を突っ込ませて、水を流した。
 霊だからこそなせる業なのだろうけど、この光景は驚いてしまう。
『苦しい?』
 ゴホゴホとむせる野田さんに聞いた。
「苦しかった…。私たち、貴女に酷い事をしていたのね」
『されてみて、初めて気がつくのよね。篠原さんも、そうだったけど。もう一度聞くわ。私に悪かったと思って、謝ろうって気になった?』
 祐美は、野田さんから手を放した。
「ええ。今野さん、あの時は本当にごめんなさい」
 野田さんは、深々と頭を下げて謝る。
『仕方ないから許す。だから、顔をあげて?』
「有難う、今野さん。私たち、これからは、今野さんのうちに行って、お参りをするわ」
「野田さんの言うとおり、私たちはこれかは、お参りをしに行くわ。仕事で忙しくない時は、そうさせてもらいたいの」
 真美も、祐美に気持ちを伝える。
「私たちも、こういう形じゃなくて、会いに行っていい?」
 二人の様子を見ていた私も、そうお願いする。
『お参りに来てくれるなんて、そんな事思ってなかったけれど、そうね、私だっていつまでもここにはいたくないし、貴方たちが約束をしてくれたら、成仏するって約束してもいい』
 祐美は一言二言かみ締めて話した。
 その顔には、もう憎しみはなかった。
「僕から一つお願いがあるんだけど、その体を返してもらえないだろうか?」
 御手洗は優しい口調で、祐美に話しかけると、祐美は、小さく頷いて、今までありがとうと笑顔で言うと、彩花の体から出て行った。