小悪魔な彼

 
「成長期がくる前の俺は、今みたいに男らしさも全然なくて、女みたいにひ弱だった。
 その上、牛乳瓶みたいなメガネかけて、いつも下ばっか見て……

 正直、俺を気持ち悪がる人ばかりでしたよ」


胸が痛くなる言葉。

信じがたいことだけど、今の峰岸くんの表情を見れば、決してそれが嘘なんかじゃないと分かった。


「友達なんかいなくて……俺を心配するような人なんかいなくて……俺はいつも一人だった。
 一人が平気だって思ってたし。

 そんな中、受験シーズンが来て、願書を出しにこの学校に来たんです」


窓を開け、心地いい風が入ってくる。

あたしは、遠い向こうを見ている峰岸くんの背中を見つめていた。


「だけど急にお腹が痛くなって、門の前でうずくまっちゃって……。
 友達のいない俺は、当然一人で来てたし、他校の生徒も俺の存在に気づいても、声をかけるやつなんていなかった。

 腹はみるみるうちに痛くなって、ついに倒れこみそうになった瞬間……


 あなたが現れたんです」


「え……?」



あたしのほうへ振り向く峰岸くん。

その顔は、とても優しく微笑んでいた。