そのゲームはあっけなく幕を閉じる事になる。

薫はテーブルの上のナイフを手に取った。

ためらうことなく。

すでに覚悟を決めたのだろうか、明美は今立っている位置から動こうとしない。明美の靴の上には涙があふれていた。

ナイフを右手に持ち替え、明美の正面に立つ。

生き残る為には、この方法しかないんだ。
ごめん、明美ちゃん。

「嘘でしょ?」

明美の必死の問いかけを振り払うように、薫は右手を前に出した。

サクッ

人間を刺したことなんて、もちろんない。こんなにも簡単にさせるものなのか。
明美の下腹部に刺さるナイフ。まだ血は出ていない。一気に恐怖が全身に走る。
自分の手じゃないみたいだ。右手の握力がどんどん落ちていく。

カランカランカラン・・

ナイフが床に転がる。

「え?」

なぜナイフが落ちるんだ。たしかに刺したはずなのに。

「チェックメイト。」

ザクッ

聞き覚えのある男の声。ナイフが背中に刺さったまま、その場に倒れ込んだ。

薫は薄れゆく意識の中で、犯人を確認する。
自分と同じぐらいの若い男。縦のストライプが入ったスーツを羽織っている。
男は笑っていた。

「こんにちは、辻井さん。私が「X」です。」

床に落ちたおもちゃのナイフの先を出し入れしながら、その男は言った。