「……っ。」
やりにくいどころじゃないよ。
みんな、なんでわかってくれないんだろう?
……やっぱり、教育実習なんてやめればよかった。
そもそも、俺は教職なんて取るつもりはなかったんだよ。……ナオと結婚するまで、は。
大学は遊ぶために入ったようなもんだし、
卒業したら、バイト先にそのまま居座るつもりだったし。
確かに、1年のときから教職の単位は確保してたけど、親の手前って言うか…
途中で逃げるつもりだったのに……
ナオのためには、安定した職に就くことが必要で。
幸運にも、うちの親には強力なコネがあった。
うちの親…いや、正確には我が“沢木家”は、
関東を中心に、大手学習塾チェーンを経営している。
それゆえ、親戚は教育者ばかり。
たとえ教鞭を取らなくても、“教員免許”は必須とされていて…
“コネで”本部に入社するつもりの俺も、もれなく教職を取ることとなったわけだ。
……ちなみに、
ここの理事長と言うのは、俺の叔父だったりする。
だから当然、ナオとのことも知られている。
恵まれているようだけど、実はすっごくやりにくい“職場”だ。