唇が触れるまで、あとわずか10センチ。
そこでピタッと動きを止めて。ナオが呟いた。
「この匂い…昨夜と同じ。」
「……へっ?」
「女物の香水の匂い」
そして、俺からすっと離れて、まっすぐに見つめてきた。
その顔に表情はなくて…
それが逆にすごく怖い。
「おかしいと思ったんだよね」
瞳に俺を捉えたまま、ナオは続ける。
「お酒の匂いだけじゃない…私の知らない匂いがしたから。」
……え?
「どこかで嗅いだことあるなぁって思ってたけど…さっきのでよくわかったよ」
さっきの、って…?
まさか…
木下とのやり取りを見られてたわけ?
うわっ…
「いい?龍ちゃん。私はこれでも“理解のある妻”ですから。1度くらいの“過ち”は許しましょう」
「過ちって、俺は別に…」
「いいの。カラダの浮気をしてないことは、昨夜ちゃんと確かめたから」
はぁっ?
何をどうやって確かめるって言うんだよ?
そもそも、俺は何もしてないから!
「でもね、
“次”はないからね?」

