「えぇっ?沢木くんまで?」


立ち上がった俺に、すがりついてくる木下。


「なんでぇ?まだいいじゃない。まだ9時前だよ?」


まだ、って…

同じ大学のよしみでつき合ってやってたけど、さすがに限界。


「いや…明日早いし。帰ってやることあるし。」


可愛い“妻”が家で待ってるし…って、言えたらどんなに楽だろう?

さすがに、実習中にバラすわけにはいかないけど。


「ほら。木下も…」


木下の腕をやんわりとほどいて、帰るよう促す。

仕切っているのはカーテンとは言え、ここも立派な“個室”。

こんなところを知り合いに見られでもしたら…たまったもんじゃない。


「おい…」


そんな俺に気づくことなく、座り込んだまま動こうとしない木下。

しゃがんで覗き込んでみれば、赤い顔でボーッとどこかを見つめていて…


飲みすぎ、だな。

フリかと思ったけど、実際だいぶきてるみたいだ。

仕方ない。


「ほら、掴まって。とりあえず出るぞ。」


木下の腕を掴んで立ち上がらせて、引きずるようにして入り口へと向かう。

タクシーを呼んで、帰らせよう……