「……………………」
「それからも何度か名前を呟いていたのを聞いたから、あなたに会えたら少しは良くなると思うの」
さっきから、俺を見て“ ゆう君 ”と呼んでいるが……
「それは……」
それは多分、俺じゃない他の誰かだ。
なのに
「彼女は、この先のお部屋にいらっしゃるわ。きっと二人きりの方が話しやすいと思うから、私は一度自分の部屋に戻っているわね」
俺をゆう君だと信じて疑わないカウンセラーは、マリアがいる部屋を教えてくれる。
「何かあったら、内線で高良さんに連絡して下さい。直ぐに来ますから」
「……………………」
「それでは、よろしくお願いしますね」
「……あ」
ぺこりと頭を下げて、俺が口を開く前に背を向けて歩き出してしまったカウンセラー。
俺は、ゆう君じゃない。
そう告げようとしたけれど、続く言葉は出てこなかった。
勘違いされたままならば、この先にいるマリアに何の障害もなく会えると思ったから。
その後姿が完全に見えなくなるまで見送ってから、俺もマリアのいる部屋へと歩き出した。


