「あぁ……ごめん、ごめん」


謝りながら、壁の時計に視線を向ける。

時間を見れば、そろそろアル君が空港に着く頃だった。

ポケットに入れていたスマホを取り出して、画面をスライドさせていれば


「……で? 何を忘れてたんだよ?」


向かいから顔を顰めた響君が声を掛けてきた。


「ん~、さっきのお客さんにね……大事な事言うの、すっかり忘れててさぁ~」


「…忘れるなよ……」


「あはは」


笑いながら、指で通話画面に触れると


『Hello.』


呼び出し音も鳴らないうちに繋がる相手に苦笑い。


「あ……ハロ~! アル君?」


『何だよ、慧』


さっき追い出すように返したからなのか、すげぇ嫌そうな声で答えるアル君。


「あのね? マークさんに言伝してもらいたいんだけどさ」


『…兄さんに?』


俺からマークさんへ伝言なんて初めてだから、訝しげな声に変わったアル君。


「うん、そう。マークさんとの賭けの事。魁君の勝ちだよ……って伝えて?」


『おい、それって…』


「じゃあ、頼んだよ」


『お、おい! 待っ……』


アル君の返事を聞く事無く、通話を終了させた俺。

さて。マークさんは、どう出てくるかなぁ……

向かいでは、唖然とした顔の響君が視界の端に映ったけど、それを気にする事無く紅茶の入ったティーカップに手を伸ばした。