───は? 『ゆう君』?
おいおい、マリアちゃん。
いくら高熱で浮かされてるからって、自分の婚約者の名前を間違えたら拙くないか?
…って、彼女は魁が婚約者だって知らないんだっけ。
それにしても……気の毒なのは魁で。
自分の顔を見て、全く知らない男の名前を呼ばれたショックで固まっちまってるじゃないか。
「おい、慧。ゆう君って誰だよ?」
一応、小声で尋ねてみれば
「あのね、響君。俺が知ってるわけないでしょ?」
苦虫を噛み潰したような顔をして、文句を言ってくる慧。
「…だよなぁ……」
部屋の片隅で、困惑する俺と慧。
そんな俺達に、全く気づかない二人の会話は続いていて。
「ゆう君?」
もう一度呼ばれた名前に、ハッとした魁の肩がピクリと揺れて
「───気づくの、おせぇよ……」
不貞腐れたような声とは反対に、蕩けるような笑顔を彼女に見せた。


