(side:響)


再び高熱で寝込んでいる彼女の診察を終えて、ぐっすりと眠っている間に点滴の処置を施す。

ポタポタと落ちてくる輸液の速度を調節して、目の前のアイツに視線を投げれば


「───何だよ」


それに気づいた魁が、不機嫌そうに俺を睨んだ。


「いや、お前も色々と大変なんだなぁ…って思ってね」


「…何の事だ」


何の事を言われているのか、わからない魁に


「さっきの事。喉まで出掛かったのに、自分の婚約者は彼女だって言えないもどかしさ…とかさ?」


「……あぁ…」


俺の言葉に納得した魁は、俺から視線を外し彼女を見遣る。


解熱剤が効いてきたのか、すやすやと眠る様子を見てホッとした魁が、小さな息と共に笑みを零した。

その表情は、普段は見せない穏やかなもので。

最初にそれを目の当たりにした時は、流石の俺でも凝視したまま固まった。





三日前、彼女を抱えて部屋に飛び込んで来た姿を思い出す。