田中に普通に話し掛けられたならば、強張る表情を見せる筈のないマリア。
彼女の頭に触れた時に感じた震えは気のせいではなく、何かを堪えているようだった。
「…………」
「……魁? もう一度、田中から詳しく聞くか?」
電話口よりも近くで聞こえた声に振り返れば、背後に立っていた葵。
スマホの通話を終了させて葵に視線を向ける魁は、葵の提案に静かに首を振る。
現役総長の葵が聞いても納得のいかない答えしか返ってこないのだから、自分が何度聞いても同じ答えしか得られない事は目に見えていた。
「…田中は?」
「今、蓮と一緒にいるよ」
「そうか……一件、電話を掛けたら出発する……」
魁の言葉に頷いた葵は、蓮の元へと足を向けた。
それを視界の端に捉えながら、手にしたままだったスマホを操作して登録されている連絡先を呼び出す。
『──…Hello.』
スマホを耳に当てると、コール音も鳴らないうちに出た相手に苦笑いを浮かべてしまう。
「…魁です。お忙しいのにすみません……」
『お前から電話を掛けてくるなんて珍しいな……何かあったのか?』
突然の電話を謝罪する魁に、珍しく驚いた声を上げる相手。
「──…ちょっと、お聞きしたい事があります……」


