Wonderful DaysⅠ



「──…で?」


途中、尻窄みになった会話の先を促す魁さんに


「あの…ホットココアを渡しました…。声を掛けようと思ったんですが、英語がわからなくて固まってました」


震える声で答えた田中さん。


───何で、私の名前を知っている事を隠すの?


田中さんの言葉は間違ってはいないけど…少なくとも私の事を知っているらしい彼は、その事を魁さんに伝えていない。

それを聞いた魁さんは、ちらりと視線を向けてくる。


「──…チッ…」


私の顔を見た途端、顔を顰めた魁さんは苛立たしげに舌打ちをすると


「──葵」


「はい、はい」


葵さんを呼んだ。

言葉は何も発しないけれど、目配せだけで理解したらしい葵さんはこくりと頷くと、田中さんの元へ歩を進める。

それを確認した魁さんは、私に視線を合わせると車のドアを開けてスッと座席に滑り込んで来た。