───王子様?
アル兄さんの事を言っているんだよね?
確かにアル兄さんの容姿は、王子様って言われてもおかしくないけど……
さっきから慧さんの言葉に出てくる「お姫様」と「王子様」の単語を聞いて、頭に浮かんでくるのは
もしかして、慧さんって御伽噺好き?
ちらりと慧さんに視線を向ければ、スマホで話をしているようでフロントにいた店員さんがコートを手渡していた。
チャラいホストみたいな慧さんが……
想像したら可笑しくて、笑いを堪えていたら
「お嬢様、こちらのコートをどうぞ」
後ろから掛けられた声にびっくりして振り向けば、奥の部屋から出てきた別の店員さんがオフホワイトのアンゴラのコートを手にしていた。
「ありがとうございます」
お礼を言って袖に手を通すと、フロントの方から歩いて来た慧さんが
「アルも、これから向かうってさ。俺達の方が早く着くから、ロビーラウンジで待ち合わせだよ」
会話を終えたスマホを見せながらにこりと笑ったから、それに頷く。
「じゃあ、ありがとね~」
私の前を通り過ぎて店長さんに軽く挨拶をすると出口に向かって歩き出してしまったから、私も店員さん達に挨拶をして慌てて後を追い掛けた。