「マリア……」


小さく私の名前を呟いた男の子は、僅かに笑みを浮かべると


「……決めた」


意味不明の言葉を発して前を向いてしまった。


───何を決めたんだろう……?


首を傾げ、男の子の後姿を見ながら歩いていれば


「……マリアっ!」


かなり遠くから、アル兄さんの声が聞こえてきた。

その声に気が付いた男の子も振り向くと


「兄貴か?」


視線をアル兄さんに向けたまま質問してくるから「そうです」と頷く。

すると、私に向き直った男の子は


「やっぱり、さっきの提案やめた。」


「え?」


さっきの提案って、男の子の家にホームステイとかの話だよね……?

突然、拒否された言葉に、また心が暗くなったのは一瞬。

次に出てきた言葉に、頭が真っ白になった。


「お前、日本に帰りたいんだろ? なら、俺の妻にしてやる。」