オクターブ ~縮まるキョリ~



時間が止まったかのように思えた。

耳に音が入らない。

何も考えられなくなる。

ただ生ぬるい風が、私の頬を撫でる。


「だから、教えてほしい。樫原は、永山と付き合ってるのか。」


先ほどと同じ質問を、春瀬くんは繰り返した。
より低いトーンで。
より真剣な表情で。


心臓の音が、ばくばくとうるさい。
質問の答えは簡単だ。
付き合ってないと一言、事実を言えばいい。


でも、どうして春瀬くんはそれを気にするのだろう。
どうして、私なんかのことを気にするのだろう。



--俺さ、あんたの泣き顔見たくなくてさ……



永山くんの、思いつめたような横顔が思い出される。
あの時の永山くん、すごく切なそうで、少しふて腐れているようにも見えた。
まるで、欲しいものを「欲しい」と言えない、恥ずかしがりやの子供のような。