オクターブ ~縮まるキョリ~



「じゃあさ、今から花火やんね?」


春瀬くんはアイスを口にくわえながら、唐突にそう言う。


「えっ?」

「だって樫原、結局祭りにも来てなかったろ?せっかく夏なんだからさ、夏らしいことしよーぜ。」

「で、でもそんな急に

「えー、いいでしょ?花火きらい?それとも、俺のこときらい?」


突然の提案にたじろいでいると、春瀬くんは女の子みたいなポーズで上目づかいをしてきた。
完全におちゃらけた言動なのだけれど、私の心臓はバカ正直にドキンと高鳴る。


「そ、そんなことないよ!」


春瀬くんのことを嫌いなわけがない。
私は彼の言葉をもちろん否定する。


「じゃあ決まりな!ちょっと待ってて。」


春瀬くんは乙女ぶった表情をすぐに満面の笑みへと変え、すっくと立ち上がる。
そしてアイスの抜け殻をゴミ箱に放ると、再びコンビニの中へと入っていった。
私は唖然としながら、その後ろ姿を見つめる。


何という行動力だろう。
強引といえば強引だけど、全然いやな気がしない。
ドッチボールの時もそうだったけれど、春瀬くんの「思いついたら即行動」は、なんだかスカっとする。


私がうつむいてアイスをちゅうちゅうと吸っている間に、春瀬くんは立ち上がって行ってしまうのだ。