オクターブ ~縮まるキョリ~



「樫原さん、鼻血出した時さぁ、春瀬くんにお姫さま抱っこされてたじゃん?
あれで彼女気取りするの、マジでウザいんだけど。」

「えっ……」


お姫さま抱っこって。
私、そんな風にして運ばれていたの?
普通、ああいう時はおんぶして運んでくれるものじゃないの?


春瀬くんはあの時、私の鼻の下に指を当てて、鼻血が垂れるのを止めてくれていた。
その後は貧血で気を失ってしまったから、どうやって運ばれていたのか私自身は知らない。
でも確かに、春瀬くんのTシャツを洗うとき、肩や背中のあたりの血の汚れは付いてなかった。
おんぶでは運ばなかったという、何よりの証拠だろう。


クラスのみんなの前で、お姫さま抱っこされていたなんて。
その事実を知らされて、私は急に恥ずかしくなってしまう。


でも今は、恥ずかしがっている場合ではない。
「彼女気取り」だなんて。
私は一切、そんなつもりはないし、そんな言動もしていないのに。