永山くんは眉間にシワを寄せたままこう続けた。


「…ていうか、あんた誰だっけ?」


面と向かってそう言われて、私はかなり驚いた。
というよりは、威嚇されているようで怖くなった。
彼の表情はどうやら「不機嫌」だったわけではなく、不審者を見る顔だったようだ。


同じクラスになってもう1ヶ月以上たつのに、顔すら把握されていないだなんて…。
私は少しそのことにガッカリもしたが、永山くんの名前を覚えていなかった時点で人のことは言えない。


「あっ、私、二年C組の樫原詩帆」

「かしはら…ああ、樫原か」


彼はそう言って、ようやく眉根の力を抜く。
とはいえ、笑顔になったわけではないけど。


「悪かったな、制服だったから同じ高校だってことは分かったんだけど」

「ううん、私も永山くんの名前すぐ思い出せなくて…」


永山くんは「気にしない」と言う代わりに軽く首を振る。
彼の短い黒髪とその素振りを見て、なんとなく硬派な武士っぽいイメージを私は抱いた。