「けど、あの日な。ドッヂボールした日。
樫原を抱えて保健室まで連れていく時、なんつーか…すげぇ幸せだったんだ。
満ち足りたっていうか。俺、今、人の役に立ててるなって。
人のこと守れてるなって。」


春瀬くんは言葉を続ける。


「樫原を抱えてる自分が、なんかすげぇしっくりきて。
俺が守りたいって思った。この気持ちをずっと感じてたいって。
それで、樫原を自分のものにしたいと思った。
名前で呼んでみたり、したくなった。」


永山くんが言っていたことを思い出す。
春瀬くんは、私の名前を呼んでいた、と。


春瀬くんの顔は真剣そのものだった。
外灯の下で、先ほどまで切なげだった眼差しは、力強い光を帯びていた。


「…意味わかんねーだろ?俺もよく分かんねーんだ。
どうして急にそんな感覚になったのか。
……でも、理屈じゃなくて、とにかくそういう気持ちになった。
その結果が全てだと思ってる。」


拳をぎゅっと握り直し、春瀬くんは言う。


「それで、永山とおまえが付き合ってるって聞いて、なんか腹が立って、ハッキリ分かったよ。
その『結果』の意味が。」


春瀬くんの眼は、私を捉えて離さない。
心臓が、爆発しそう。




「俺、お前のことが好きなんだ。」