舞台を見に来てくれた遊佐は、いつの間にか姿を消していた。




…見に来てくれてありがとう。




面と向かってはもう言えないけれど、心の中でお礼を言った。







学校ではみんなに銀賞おめでとう、と言ってもらえた。
最後にみんなでとった銀賞…本当に嬉しい。

そんな時に先生から声をかけられた。
先生のあとをついて行くと、応接室についた。
何事だろう…と思いながら中へ入る。



そこには知らないおじさんが座っていた。






「お待たせいたしました。
彼女を連れてきました。」



「ありがとうございます。
影橋妃奈さん、ですね?」



「はい、そうですけど…。」



「少しお話があるんですがよろしいですか?」



「…大丈夫です。」



私はこの人と向かい合うように座った。
隣には先生が座り、話が始まった。





「申し遅れました。
私、舞台役者養成学校の校長の工藤岳(くどうがく)といいます。

この前の発表見させていただきました。
声のトーンや音程などが絶妙で聞きやすい上に、表情を見ていなくても感情が言葉だけで伝わってきました。」



「ありがとうございます。」



「そこで、もし進学先が未定でしたらこちらの方も候補の一つとして頂けないかと思い、来させていただきました。」



そう言ってパンフレットを手渡された。




「え、あの、これは…」



「あなたはもっと磨けば輝く。
間違いなくもっと大きな舞台に立てる。

…私の学校で一歩を踏み出してみませんか?」



私が…役者を目指す……?
演じることは好きだ。
でもそれを職にする発想はなかった…。



いきなりのことで頭の整理ができない。



「返事はいくらでも待ちます。

もちろんスカウトという形だから学費はある程度はこちらが負担します。
ただ来るからには真剣に、誰にも負けない向上心が必要です。
生半可な覚悟では潰されてしまう、そんな世界です。


それを踏まえて検討してみてください。」



「…はい、ありがとうございます。」





私が役者に……?