そんな気持ちのまま、部活最後の演劇発表の時が来た。
とにかく今は余計な事を考えずに舞台を、本番を、成功させないと…。



高校最後なんだから、悔いは残したくない。



そんな私の肩をぽんぽん、と誰かが叩いた。



「緊張するよなー。
俺も今かなりやばいわ。」



「武久君…。
うん。すごく緊張する。」



「…みんなで成功させような。」




「うん…みんなで最高のものにしよう。」





そして本番が始まった。


ライトに照らされ、じりじりとした熱さが襲ってくる中での演技。
私はこの熱さが大好きだ。

観客を見渡しながらセリフを言っていると、いるはずのない人が客席に座っていた。



客席は暗く、見えにくいはずなのに…あの人の姿だけは妙に明るく見える。



私の愛する人の姿が…。




その事に動揺し、セリフが飛びそうになったがすぐに我に返った。
なるべく気にしないように演技し続け、とうとうクライマックスへと突入する。



あの、告白シーンだ。





「私が一番近くにいた筈なのに、
私が一番真のことを知ってる筈なのに、
どうして…どうして私じゃないのかって!!!!」



私が一番遊佐の近くにいたと思う。
私が一番遊佐のことを知っていると思う。
…なのにどうして、私じゃなく他の子なのだろうか。



「唯一彼女以外のポジションで近くにいれるのに、その場所を無くしてしまうかもしれないって……そんなことばっかり考えてた。」



契約した関係…遊佐の近くにいれるならそれでもいいと思ってた。
どんな形でも遊佐のそばにいたかった…。






「好き…ずっと好きだったの……。」



もう伝えることはないこの想い。
私は心から遊佐のことが大好きでした。




舞台の幕が閉じ、高校最後の舞台は終わった。





告白シーン…無意識にセリフ全てに遊佐を重ねていた。
まぁでも、本人に直接言ったわけじゃないしいいよね。
心の中で想っていても…いいよね。



少し心が軽くなった私は部員のみんなと舞台の成功を喜んだ。





全部の学校の発表が終わり、銀賞、金賞の発表の時間となった。

どうか、入賞していますように…全員で祈っていると私達の学校が呼ばれた。




結果は銀賞。
それでも、それでも私達にとっては大きなものだった。



「続きまして、個人賞の発表をします。」



個人賞とは優秀賞、最優秀賞の二つがあり、基本は金賞の学校から名前があげられる。

…まぁ一番良かった舞台ってことなんだから当たり前だけど。



案の定、個人賞は金賞の学校の子から選ばれていた。



個人賞は欲しくはないと言ったら嘘になる。
でもみんなでとったこの銀賞へ…個人賞より何倍も重いものだな、と思った。