私と武久君が別れた、という噂が回っている中…もう一つ、ある噂が流れ始めた。




″楠木遊佐に好きな人ができた″




これは私に大きな衝撃を与えた。
授業が終わり部室へ行こうと廊下を歩いていると、周りの女子達がこの噂についてあちこちで話をしている。



「ねぇ聞いた?
楠木君に好きな人ができたんだって。」



「え、まじで!?」



「なんか告白した子がそう言われたらしいんだよね。
あー、今度は誰を好きになったんだろうね。」



「私だといいなー。」



「それはないね」



「え、ひど。
夢くらい見ててもいいでしょ!!」



遊佐に好きな人ができた…
私とは好き同士で付き合ってたわけじゃないから、実質初恋…なのかな。

私と別れたのはその為だったのだと理解した。
好き人と付き合いたいから別れようということだったのだろう。



…言い方は悪いが、女の子はべらしたい的な気持ちじゃなかったことに安心と、そして胸に痛みを感じる。



「…遊佐に好きな人、か。
遊佐なら絶対どんな子でも落とせるよね。」



もし彼がその好きな子と付き合い始めたら…私はおめでとう、と思えるのだろうか。

いや、無理だろうな。
だって私はまだ彼が好きだから…おめでとうなんて言えない。



でも、せっかく彼に好きな人ができたんだ…応援はしないとね。




そう思いながら歩いていると、正面から遊佐が歩いてきていた。

一度目が合うが、私から目をそらした。
そして一言も交わすことなくすれ違う。



…遊佐はこれから好きな子の所にでも行くのだろうか。

そんなことを考えては胸に痛みを感じる、その繰り返しだ。



遊佐……その恋、頑張って欲しいけど祝福はできない。

ごめんなさい。