取引恋愛




いつもと変わらない日常を送るつもりだったのが、真の一言により大きく崩れた。



「あー…あのさ、相談があるんだけど」



「相談?何について?」



「…俺、好きかもしれない奴が出来たんだ。
それでどうすりゃいいとかわかんねぇからさ…。」



「好き…な人……?」



「あぁ。
って言っても好きかもしれないってだけだからな?
…今は気になってる程度。」



実華は真に彼女ができた時のことを想像してみた。
自分より距離が近く、
自分といるより幸せそうに笑う、
そんな姿を考えただけで胸がしめつけられる様な感覚に陥った。



「…そっか。
真にも春が来たんだね!!
おめでとー!!」



「さんきゅ。
まぁこれから色々相談するかもしれねぇけどよろしくな。」



「どんとこいだよ!」



この胸の痛みに自分も、真にも気づかせないためにわざと明るく振舞う実華。
そんな実華にもちろん気づくはずもなく、真は笑顔でその場を立ち去った。



何なんだろう、この気持ち。
幼なじみが恋をし始めてるんだ。
嬉しい…はずなのに、苦しい。

今まで一緒だったから淋しいだけだよね。



そう思い込み、私も日常生活に戻った。



その日から真が可愛らしい女の子と話している姿がよく見られた。
それがまた辛くて二人でいるところは避けるようにしていた。

そんな中でも登下校は一緒。
もちろん気兼ねなく話せるし、楽しいんだけど…最近はこの登下校も私にとっては苦痛となっていた。



「今日な、次の休みに和佳奈(わかな)と遊びに行く約束したんだぜ。
それでさ服どんなんがいいと思う?」



「…そうだなー、シンプルなやつでいいんじゃない?
気合入れすぎるとお互い逆に気遣うかもしれないしさ。」



「なるほどな。
あーもう実華がいてくれて本当に助かった。
俺こういうの疎いからわかんねぇんだよな。」



…心のもやもや、ちくちくは収まりはしない。
むしろ協力する事で日に日に増していく。

真から和佳奈ちゃんというあの可愛い女の子の 話を聞く度に嫉妬してしまう自分が、実華は嫌いだった。



このままだと私がおかしくなる…
苦しくて、辛い毎日を送ることになってしまう…

距離をあければ
こんな思いしなくて済むのではないか
今までどおりの幼なじみになれるのではないか
実華はそんなことを考えるようになった。



そして別れ際に思い切って話を切り出した。



「…真、明日から登下校は別々にしよ?」



「え、なんで?」



「好きかもしれない子がいるんだったら、こういうところ見られて勘違いされるかもしれないでしょ?

私達は昔から当たり前のように一緒に登下校してきた。
でも周りに男女が一緒にきてるって思われてもおかしくはない。」



「あ…まぁそうだよな。
そっか…そうだよな。


……わかった。
明日からは別々な。」



「うん。」




これでいいんだ。
これで…全てが上手くいくはず。

実華は自分の気持ちの変化に気づきつつあるが、気持ちに蓋をするようにこの想いを押し殺した。