この町はあの人がいる場所じゃない



何も動かない


町の背景が全てセピアに見えて


ピンと張り詰めた空気が寂しさを催す



確かに美しくて広大な土地


けれども


この空はあの懐かしくて愛しい日々を映すことも


悲しくて恨めしい日々を映すこともない



もうあの人に逢えない



人影さえない駅のホーム


あの人が呼んでいる気さえして


泣けた


旅立とうとする私を


町の空気全てが引きとめようとする


それでももうこの場所にはいられない


わたしがいれば今度はあの人が旅立つ



あの人の居なくなった町で


私はどうやって息をして


どうやって笑えばいいのだろう



だからここへ来た


あの人が旅たつ前に


私がここに