散華の麗人

――分城
辻丸は不服そうに良寧の隣に座っている。
「何や。何か不服か。」
一正は書面に目を通しながら言う。
「つまらん。」
辻丸がぶすくれる。
「まあまあ。我々だけではどうにもなりませんから。」
良寧は落ち着いている。
「陛下。」
襖の向こうから声がする。
「風麗」
一正がその名前を呼ぶ。
「……裏門の修繕終わりました。」
「もう終わったんか?」
「仮のものですが。」
「1人で?」
「ええ。」
「よく出来たな。」
一正が驚きながら襖を開けた。
そこにはいつも通りの風麗が居る。
「畝……ではなかった、雅之は?」
「さあ?“野暮用”だとか言って、木材調達をやると去って行きました。」
「ふうん。」
一正は外を見る。
雨は上がったようだ。
「ふうん」
辻丸も外を見る。
「多分、皆様お察しでしょうが。」
「ああ。」
「そうだな。」
「ええ。」
風麗に一正、辻丸、良寧が頷いた。
「素直でないのは父譲り、ですか。」
「本当に、良く似た親子だな。」
良寧と辻丸が言う。
「何はともあれ、あいつが居るなら心配いらんやろ。」
「親子喧嘩さえしなければ。」
「言えてんな。」
「はは、」
風麗と一正は笑った。
「洒落になんねーぞ……」
辻丸は思わず項垂れる。
「そのときはお説教ですね。」
良寧が爽やかに言う。
「あんたのも洒落になんねー。別の意味で。」
「え?何か?」
「いえ、なにも。」
良寧の威圧に辻丸は自分の軽率さに気づき、噤んだ。