散華の麗人

景之は路地裏で倒れ込んでいた。
人通りが少ないその道には廃材の山と野良猫が居るだけだ。
ガァガァと烏が鳴く。
野良猫は逃げるように立ち去った。
烏は景之を見ると、翼を広げた。
黒い羽が飛ぶ。
景之は薄ら目を開けて、烏を見た。
「俺を喰らうか?」
烏は景之を暫し見た後に飛び去る。
「賢明だ。」
景之は目を閉じた。
喰らったところで美味しくもないだろう。
そんな事を考える。
なんと馬鹿らしい。
「無様だな。」
その言葉を投げたのは自分ではない。
見下ろす視線に景之は仰向けに寝返り、見上げた。
「仕留めに来たか。烏でさえ、喰らうことを躊躇ったというのに物好きな男だ。」
「思い上がるな。貴様など、仕留めたところで手柄にもならない。」
「実の父親にも容赦はないな。」
「父親ぶるな。」
「……あぁ、それは正論だ。」
景之は仰向けのままで答えた。
「へばっている割にはよく口が回ることだ。昼寝でもしているのか?」
「この状況で昼寝と言う気が知れないな。見ての通り死にかけている。」
「泣きながら懇願するのであれば手を貸すぞ?」
「貴様は俺を罵倒するためだけに探しに来たのか?物好きだ。」
「好いてなどいない。」
その人物は不快そうに眉をひそめた。
「では、何の用だ。」
「さあな。」
曖昧に返事を返して、景之を引っ張りあげる。
「気まぐれだ。」
そう言いながら景之を背負った。
「そうか。」
景之は背負われながら目を閉じた。
(息子に助けられるとは不甲斐ない。)
しかし、それは不愉快ではない。
そう思ってしまうのは怠惰だろうか。