散華の麗人

結果的に、陽炎という少年と共に八倉邸を襲った。
子供も殺そうとしたが、どうしてもそれだけは出来なかった。
なけなしの良心なのか、彼の血が混じったその子を愛おしいと思ったかは、この際最早どうでもいい。
だから、外出している隙を狙った。
秘薬のことはどうでもよかった。
黄龍がどうだとか、闇夜の一族がどうとか、心からどうでもいい話だ。
その情報については陽炎に任せることにした。
「貴方に憎んで欲しかった。」
憎んだら忘れないから。
永遠に記憶に刻みつけてあげたい。
だからこそ、秘薬の力を使い、人間ではなくなった彼を知って自分も同じ存在になった。
陽炎に協力を仰ぎ、秘薬をつくった。
愛おしい彼と同じ存在となり、彼が大事にするものを壊していこう。
壊せば壊す程、彼は私を忘れない。
「ふふふ……」
不気味な笑い声に監視役のひとが此方を警戒する。
「大丈夫、少し思い出しただけよ。」
今はもう、戦う気もない。
戦えるような力も残ってはいない。
後は狂うか、死んでいくだけだ。
(あぁ)
どうせなら、彼が殺してくれればよかったのに。
伊井は自嘲する。
(だから、私は――)
彼が殺してくれるまで、生きていたい。
(私の願いは、叶わないものばかりだ。)
彼女は静かに涙を流した。