散華の麗人

――柚木邸
捕らえられた伊井は柚木邸の地下牢に居た。
もはや抵抗するつもりもなかった。
(景之様。)
愛おしい名前。
(愛していないなど……本当は、嘘なのよ。)
真実は私だけを見て欲しかった。
側室として迎え入れられた女。
例え、愛情があろうとも正室ではない。
その立場が辛かった。
愛情だけでは賄えない孤独を感じたから。
気を引こうとする程に虚しい。
子供が出来て、その孤独は更に深くなっていった。
気を引く暇さえないけれど、気を引こうとした。
着飾ってみたり、景之に話しかけてみたりする。
私だけの彼になって欲しかった。
八倉家の事情も知っている。
研究のことも、何となく解っていた。
それで忙しいことも。
孤独が心を支配していく。
それを隠し通せる程、器用な人間ではなかった。
ある時、屋敷を抜け出した。
夜中にこっそりと。
孤独が身を焦がすのなら
こんなに寂しいのなら
いっそ、1人で死んでしまおうと思った。