巷での噂が嫌でも耳に入る。
“敗戦国である成田を一掃する為に細川一正が刺客を送った”という噂が流れている。
それを態々否定してまわろうという気持ちにはならないが、不快な気持ちになる。
その感情は何か。
細川に対する忠義か
それとも、細川一正に対しての恩義か
(恩義?)
何を考えている。
奴は父を殺したのだ。
恩義はない。
寧ろ――
“ねぇ”
少年の声がする。
“すべて、こわしてしまおうよ”
紅巴の声。
ざわりと身の毛がよだつ感覚。
直ぐに、正気になり無感情な目を真っ直ぐと進行方向へ向けた。
(……)
もう、長くはない。
秘薬による影響は抑えきれるものではない。
精神的にも
肉体的にも
ぽたりと口の端を何かが伝う。
拳で拭えば、それが血であると解った。
恐らくは、襲撃された時に秘薬の力を使いすぎたのだ。
(息が、苦しい。)
次第に、姿勢が前のめりになる。
足元が覚束無い。
(こんな無様な姿、奴らには……)
辻丸と良寧の姿を思い出す。
そして、これから訪れる場所。
(ここで倒れるわけにはいかない。)
まだ、やらねばならないことがある。