遡ること少し前、秀尚が一正の元に来た。
リアンや利光も共に居る。
思わぬことに、一正は目を見開いた。
しかし、生憎その日は殊更に一正の体調が優れない。
「どうする?」
この事件の真相は彼らが握っているかも知れないと雅之は思っていた。
利光は雅之の存在を知っている。
恐らく、二人も知っているかも知れない。
万が一、影武者であるとバレれば問い詰めることが出来ない。
確実に信頼は失う。
「……暫し、待ってもらえ。すぐに、いく。」
力なく返答する様子は話しどころではなさそうに見える。
雅之は笠を被り、顔を隠す。
襖を開けると侍女を呼びつけた。
「薬湯を持て。……それと、国王殿に暫し待ってもらうように言ってくれ。」
「はい。」
秀尚を国王殿と呼ぶことに侍女は複雑な顔した様子から、その侍女は恐らく随分長く仕えていたのだろう。
信頼されている。
慕われている。
やることは突拍子もないし、民に偏っている。
だが、心の優しさは伝わるべき相手に伝わっている。
「死んだら赦さない。」
「こんな時にも手厳しいな。」
一正は苦笑した。
「死んだら殺してやる。」
雅之は吐き捨てるように言った。
「死んだら殺すってなぁ……」
困った顔をすると雅之を見た。
雅之はそれ以上何も言うわけではなく、そっぽを向いた。