少し歩いた所で千は立ち止まった。
「どうぞ、こちらです。」
案内された部屋には誰かが寝ているようだ。
しかし、蚊帳が張られていて、誰かはわからない。
「師匠。」
風麗が呼ぶと気配が動いた。
「風麗……」
か細い声が聞こえる。
大人の男性より少し高い声音だ。
「このような格好で済みません。」
少し咳き込んだ後にはっきりとした声音になった。
「いえ。」
風麗は首を振る。
「師匠と呼んだということは……私の身勝手を許して下さるのですか?」
「許すも何も、私は迷惑なんて思っていませんよ。」
「ありがとう……風麗。」
男性の声は僅かに震えていた。
(泣いているのか?)
風麗はかける言葉を探したが、何も言えなかった。
「あぁ!」
少しして、声の主は八雲と沢川を見た。
「貴方は細川の……風麗がお世話になっております。」
「いえ、とんでもない。」
八雲と沢川は頭を下げた。
「貴方が秋月殿」
「はい。秋月紀愁と申します。」
沢川にゆっくりと優しい声音で答えた。
「ところで、何の病なのです?私達に、うつるようなものなのか?」
「この病は神経が麻痺し、末端の方から朽ちていく病です。病名はわかりません。」
「医者には診てもらった?」
「ええ。最善を尽くしてもらっております。」
「そうか。」
紀愁が答えると風麗が心配そうにする。