幻影都市の亡霊

「あたしに何かできるわけ?」

 セレコスは笑った。

「あんたにだからできるかもしれないんだ! それじゃあな!」

 唐突にセレコスは消えてしまった。ユアファは目を丸くして、

「うわぁ……消えちゃった。でも……あたしにできることなんかないわ」

 と、肩をすくめた。そして、絶望にかられた表情を浮かべる男を見た。そして再び肩をすくめて、何も言わずに部屋から出て行った。彼女にはできることなどないのだ。ただ、堕ちないように見守ってやるしか。

 何を会話するでもなく、ウィンレオはユアファに勧められるままに魔粥を飲み、眠りにつき、起きだす生活を数日続けた。ユアファは何も言わずに、そんな彼を見守った。ときどき、セレコスが様子を見にやってきたが、変化のなさを見ては、帰っていった。

 二週間ほど経った時だったろうか、ウィンレオが首飾りを眺めながら座っているところに、ユアファが向かい合うように座った時のことだ。

「世話に、なっているな……」

 ユアファは少し目を見張り、

「何を今さら」

 と一笑する。ウィンレオは淋しそうに、

「本当は、私はあの場所へ帰らなくてはならないんだな……」

 その言葉に、ユアファは違和感を覚える。

「……私が悪かったんだ……オーク……」
「あんた、自分のこと私って言ってた?」

 ウィンレオは険しい顔で自分を見つめるユアファを見た。

「私は王だから、帰らなくては……」

 ユアファは、はっとした。いけない兆候だと思った。自分のことを押し込めようとしている。

「何があったの?」

 ウィンレオが驚いてユアファを見た。彼女から聞いたのは初めてだった。ウィンレオは不思議そうに彼女を見た。

「何があったの?」

 声を強めて、ユアファが言った。ウィンレオは、うつむいた。

「言いなさい!」
「今まで訊かなかった!」

 ウィンレオはダダをこねる子供のように叫んだ。しかしユアファはやめず、

「貴方のために訊かなかった! だけど今は貴方のためだから訊いてる!」

 ユアファは身を乗り出してウィンレオの両肩を掴んだ。