幻影都市の亡霊

「貴方も、誰かを死なせてしまったんじゃないかしら?そう、その首飾りの持ち主を」
「……」

 ウィンレオは無言で肯いた。ユアファはふっと息を吐いて、やれやれ、といった風に、ウィンレオの身体を支えて、自分の隣の椅子に腰掛けさせた。

「なんとなく、そんな気がした」
「…………」

 ユアファは首を横に振って、

「何も話さなくていいから、ここに泊まっていきなさい。宿無しなんでしょう? 王様は」
「……クロリス=ウィンレオ=エンドストロール」
「名前? エンドストロール、迷わない者か。凄い名前ね、さすが王様。で、どれが本当の名前?」

 はっとして、ウィンレオはユアファを見た。少なくとも初めてだった。どれが本当の名前なのか聞いてくれたのは。

「ウィンレオ……」
「そうよねー。王様となれば王名がつくものねぇ。でも王になるまではウィンレオ君だったわけね。わかったわ、宜しく、ウィンレオ」

 そうやって笑うユアファの顔は、今まで見た中で一番綺麗な笑顔に思えた。ソフラスの様に傲慢な作り笑顔でも、ユークラフの様に遠慮して一歩身を引いた笑顔でもない。自分を同等な者だと見なす、親しい者へ送る笑顔だった。そしてそれは、今までずっとオークが自分に向けてくれていた笑顔だった。悪戯を企てるような感じで笑う、あの美しい亡霊はもういない――。

「思う存分ここにいていいから。気が済んだら、ちゃんと、待っている人のいる場所へ帰りなさい」

 ユアファの言葉に、ウィンレオは素直に肯いた。そして用意してもらった部屋で、しばらく寝泊りすることに決めた。



 翌日ウィンレオが起きだすと、すでにこの家の住人はいなくなっていた。

〝見ず知らずの男を一人残して、よく家を開けられるものだ……〟

 そんな女の度胸に、ウィンレオは呆れを通り越して感心したものだ。そして、すっとテーブルについた。何もせずにこのまま、過ごそうと思っている。何より何もする気力もわかない。家の中を見回した。あちこちに魔法に使用するのかと思われる道具が置いてあり、整頓してある。昨日使っていた釜も、棚の上に置いてあった。