幻影都市の亡霊

「魔粥よ。あたしはとてもこんなものは食べられないんだけど、あんた亡霊なんだから、こういう物しか食べられないでしょう」
「…………」

 ウィンレオは顔を上げなかった。ユアファはむっとして、

「……だから、そういう態度はムカツクって……」

 ぐいっ

「っ!」
「って言ってんの!」

 ユアファは右手でウィンレオの前髪を掴んで、顔を引っ張り上げ、その口に魔粥を流し込んだ。温かい味がした。闇に包まれ冷え切ったウィンレオの中に、ユアファの流し込む暖かな光が、強烈な存在感を現していた。

「……」

 前髪を引っ張られながらも、ウィンレオは抵抗しなかった。そして、最後の一滴まで、全て飲み干した。ユアファはウィンレオを解放し、満面の笑みを浮かべた。

「ちゃんと飲んだわね、よろしい」
「……君は……?」

 かすれた声で、ウィンレオはユアファに尋ねた。ユアファはにっこりと笑んで、

「人間界では大魔法使いユアファって、有名。薬とか作ったりして生計を立ててるわ。弱った亡霊一人に魔粥作るのなんてお手の物よ」

 その慣れたような言い草に、ウィンレオは首をかしげて、

「他の亡霊に会ったことがある……?」
「あたしの母親は亡霊だった。もう死んじゃったけど。亡霊が現界で暮らすのも、人間が幻界で暮らすのも、良くないみたいね。亡霊だった母さんは、あたしの父親と出逢って愛し合った」

 ユアファはどかっと、椅子に座った。そして呆けているウィンレオを見ながら話を続けた。

「本当は」

 ユアファは写真立てをウィンレオに投げた。受けとめて、ウィンレオはその時の止まった紙の中で笑っている親子を見た。

 優しい面立ちの女と、逞しそうな男。そしてその間に入って笑う、小さな少女。