幻影都市の亡霊

「亡霊王だぞ!俺はっ!」

 半ば強引に、ウィンレオは術を解いた。女は目を見開き、にっこり笑った。

「亡霊王!やっぱりあんた強いんじゃなぁい!」
「はぁ?」

 女はにこにこ笑いながら、戸を開けたまま家に入っていった。呆然とウィンレオが開け放たれたままの扉を見つめていると、

「どうしたの? 入ってきなさいよ。私はユアファ=ストロール。これでも私、強いのよ。だからね、強い人は大好きなの」

 そんな女――ユアファの、緩いウェーブのきらきら光る空銀の美しい髪と、輝くような笑顔が、今のウィンレオの目にとてもまぶしく映った。そしてその光につられるように、家に入った。

「ほら、戸閉めて」

 言われるがまま戸を閉めた。ユアファは担いでいた釜に水を入れて電子コンロにかけ、スイッチを入れた。そのまま、隣にあった一つ一つの引き出しにラベルのついた戸棚から、緑色の結晶のようなものを取り出し、他の大きな扉から取り出したミキサーにその結晶を放り込む。
 そしてまた別の引出しから紅の棒状の塊を三本取り出しミキサーに入れた。同じようにして青い紙のようなものも入れる。どうやら薬を作っているようだ。ミキサーが、ガーガーと音をたてて中身を粉砕する。そうやってできた粉を沸騰した水に溶かした。

「便利な世の中よね。昔はこれをすり鉢でごりごり擂ってたのよ? どれだけの時間がかかったのでしょうね」

 ウィンレオは突っ立ったまま、その様子を見ていた。確かに便利な世の中になったものだとも思った。だが今のウィンレオに、何も答える気力など残っていなかったのだ。

〝オーク……〟

 無意識のうちに自分の両手を眺めていた。その腕の中で、彼の親友は砕け散った。亡霊が死ぬのを見たのは初めてではなかった。

 だが――……、

「…………」

 涙が一筋零れ落ちた。どうして、彼が死ななくてはならなかったのだろうか。