幻影都市の亡霊

「ぼう……れい……?」

 少年が呆然と呟いた。

 亡霊という言葉は、知っていた。いや、魔法を扱えるものにとって、当たり前の知識だった。が、この世界に――このサティフの大地にいるわけがないのだ。そんなものは――。

 サティフは、現界に位置している。そして、その世界に隣り合っていて、決して交じり合うことのない世界が――幻界。
 現界を象徴するものが科学なら、幻界を象徴するものは魔法だ。

 互いが相入ることはない。そうなのだが、この現界にも魔法を扱える人がいる。現界と幻界が密着して隣り合っているために、形の無い魔法の力がふわりと飛んできてしまうのだ。
 それを、相性の良い者達が扱う。それが現界の魔法使い達。

 ただ、幻界には科学の力は及ばない。形が在るからだ。

 現界が、形在る者達の世界なら、幻界は、形無き者達の世界だ。そう、亡霊という――。魂だけの存在。

「そうだな。俺は亡霊。で、この町は幻界に強制移動させられた、ってところだ」
「お前がやったのか……っ!」

 少年が怒る。ざわりと、髪の毛が逆立った。少年は、わけがわからなかった。何故町が消えたのか、自分が生まれ、育った町だ。母がいた。友達とは呼べなくても、話を交わしたし、気に入ってる人もいた。嫌いな人もいた。それを、誰が奪って良いというのか? ――が、少年の中には、まだ冷静に事態を観察する心も残っていた。すなわち、

〝……これは、性質の悪い夢に違いない――〟

 ということだ。

 男はすっと、その吊り目が過ぎる眼で少年を見て、

「話を、聞け」

 少年は黙った。何か、逆らってはいけない気がした。たとえ、これが夢であったとしても、己という人格を持った者が何か、酷い目に遭うのは遠慮したい。