幻影都市の亡霊

「どうして……こんなことに……」

 ヨミはその場に崩れた。ユークラフは涙を流しながら、そっとヨミを抱きしめた。

「お兄様は、勇敢だったのですね? ありがとう……」
「あと……ウィンレオはしばらく現界に行く、と……」

 はっと、ユークラフはヨミから離れた。

「あの人は、現界へ……?」

 ヨミは無言で肯いた。

「そうですか……」

 ユークラフは哀しそうに笑った。

「本当はわたくしが支えなくてはならなかった。あの人の心をお兄様がどれだけ支えていたかわかっていた……。だけど本当に、わたくしにそれができるのか……ずっと不安だったし、自信がなかった。でも、はっきりとわかりました」

 ヨミはユークラフを見た。

「彼が帰ってきたら、わたくしあの人をウィンレオと呼ぶわ」
「え……」
「遅すぎたのですね。わたくしに彼の闇をも背負う自信がなかったばかりに……お兄様の命を奪ってしまった……」

 ユークラフは静かに寝つくコロテスを、寝台へと運んだ。

「戻ってくるまで、待ちます」
「…………」

 そのままヨミは、自分の部屋へと戻っていった。



 ――その頃ウィンレオは現界にいた。

 王の衣裳を変え、歩いていた。自分がいた時代とは随分面変わりしたものだ。ここは自分のいた町ではない。だが、森に囲まれて静かだったので、何となく選んだ場所だった。

〝……オーク……〟

 首にかけた首飾りをぎゅっと握りしめる。まだ、信じられなかった。親友が死んだなんて。自分を王にし、ずっと側で支えてくれていた人だった。絶大な信頼を置いていた。誰よりも大切な人だった――。なのに、

「先に逝くなんて……」

 ふと、強い魔力を感じた。今の自分は心がボロボロで、それを少しでも癒したかった。だから魔力を感じた方へとふらふら歩いて行った。そこは、一軒の民家だった。中に人の気配は感じない。だが、そこからは強い魔力を感じる。おそらく住人のものだろう。ウィンレオはどっと倒れこむと、家の前の壁に寄りかかって、うずくまるように座り込んだ。