幻影都市の亡霊

「俺は俺であって、美少年という名前ではない。それより質問に答えてもらいたい」
 よほど「美少年」がらみの嫌な出来事があるようだ。男は肩をすくめて、
「ははん、わかったよ。この町がどうなったか、だな?」
 少年は頷いた。ほんの、
「それは……」

 ほんの、ほんの一瞬、男の顔が陰った。しかしそれは一瞬で、

「俺が消した」
「っ!」

 こともなげに言い放たれたその言葉に、絶句した少年。そして、言葉の意味を理解した瞬間、

「どういう意味だっ!」

 男に飛び掛った。が――、

 どずっ

「くっ」
「むぅ!」

 次の瞬間、少年は地面にダイビングしていた。少年が驚愕の面持ちで振り返る。そこには何事もなかったかのような黒い男――。

「なっ……」

 男はにぃっと笑う。その眼は、吊り眼が過ぎる。きつい眼だが、口元が笑うと――笑ってもきつい雰囲気は相殺されない。むしろ、笑うと、どこか挑発的な感じになる。

「俺には実体がないから、無駄だ。俺が実体化しない限り、人間であるお前には、亡霊である俺は触れない。それが肉体を持つ者と持たぬ者の違いってわけだ」

 少年は、体勢を戻して、ぽかんと男を見た。男はふと真顔になる。風が吹く。