幻影都市の亡霊

「やったっ。これで俺は王を導ける程の力を得られたわけだな?」

 青い亡霊はにこにこ微笑むだけで、何も言わなかった。とたん、ヨミは不安になる。

「ファザー、俺、まだ駄目……?」
「いや、私が教えられることは全て教えた。あとは、お前が自分で見つけるんだ、お前が選んだ王と共に、な」

 その言葉を聞いた瞬間、ヨミの顔がぱぁっと明るくなった。

「それじゃあ!」
「よく頑張ったな」

 ヨミは嬉しそうに笑った。と、そこに、

「お兄様」
「あっ?」

 王宮の女中に案内され、一人の女性がやってきた。青い亡霊が本当に驚いたように呆けた声を出した。

「ユークラフっ? なんでここに!」

 ヨミはきょとんと二人の様子を見ていた。ユークラフと呼ばれた女性は、年の頃は二十代前半だろうと思われ、ほのかな水色で染められたドレスに身を包み、クリームがかった茶髪が結い上げられている。水色の瞳が柔和に細められた。

「ちっとも連絡をくださりませんもの。会いに来てしまいましたわ」

 オーキッドはダッシュで彼女に近寄って肩を掴んだ。

「お前は! どうしてそんな無茶をする!」
「お言葉ですがお兄様? わたくし病気はほとんど良いのですよ? だからこうやってここまで来たのです」

 おっとりと言うユークラフとは裏腹に、オーキッドの顔は必死が張り付いたように凝り固まっていた。

「そして! ここに! 私に会った後またその脚で帰ると言うのか!」
「え、ええ。帰りますわ」
「それは私が許さないっ!お前は自分がどんな病に侵されているのかわかっていない」
「では、どうしろと言うんですの?私はもうここに来てしまいましたのよ?」

 オーキッドは哀しそうに首を横に振って、

「王には私が伝える。部屋を用意してもらう。ここで充分身体を休ませろ。いいな?」
「え、ええ」

 オーキッドは大きくため息をついた。そして思い出したように、

「ヨミ、こっちは俺の妹のユークラフ=ファザール=イプシロン。ユークラフ、これはヨミ。俺の弟子だ」