幻影都市の亡霊

「前の王の部下だった私と私の妻は、衰えつつある前王に代わり、現界に現れた巨大な器の持ち主を導くのを命じられた」

 ヨミは驚いた。オーキッドに妻がいたなど知らなかったのだ。

「だがな、やはり導者というのは危険なんだ。私の子を身ごもっていた妻は、亡霊王の力が弱まっている時を狙った亡霊魔に命を奪われた」
「っ!」

 オーキッドがそっと自分の手を見た。おそらく、その手の中で――。

「やはりな、耐えられないものなんだよ。お前もそうなんだろう?お前も大切な人を失った」

 ヨミは無言で肯いた。オーキッドは微笑んで、

「私がこうやって頑張っていられるのも、ウィンレオのお陰だ。私は彼を導いた。そして彼は私を救ってくれた」
「王様が?」
「特に、あいつが何をしたというわけではない。だが、彼が隣にいてくれることで私は自分を見失わないでいられるんだ。導者と王とは、そういうものなのかもしれない。お互いが己を見失わないように存在する。そしてお互いがかけがえのない存在となる。だからヨミ、お前もそんな王を導くんだ。自分を見失わないでいられるように――。自分がここにいていいのだと思えるように」
「出逢えるかな、そんな人――ファザーと王様……ウィンレオみたいに笑いあえるような人」

 ヨミの問いに、オーキッドは力強く肯いた。


 ――それから数年後。

「気を集中させて、イメージする」

 オーキッドの言葉に習い、ヨミは右手を上げる。

「そしてそのまま手を正面に、眼を閉じて、心の目で感じ取ったものに、今しがた集めた気を、一気に送り込む!」

 眼を閉じていたヨミは、静かに手を引き下げてゆく。そして、その右掌がオーキッドの作り出した黒い影を向いた瞬間、かっと目を開いた。

 どぎゅんッ

 耳障りな音を立てて、黒い影ははじけとんだ。同時にヨミが安堵の表情を浮かべ、オーキッドは嬉しそうに笑んだ。

「合格!」