幻影都市の亡霊

「ああ、貴女の言葉はもっともだ。だがな、ソフラス、私は私を愛してくれない者には愛をそそげないんだ」

 ソフラスの顔が一気に赤くなった。焦っていた。

「私が貴方を愛していないですって!?」

 ウィンレオはソフラスを見た。

「愛しているというのか?」
「もちろんですわ!」

 ソフラスは必死に肯いた。ウィンレオの紫の眼がきらりと光った。

「愛しているッ?」
「っ……!」

 突然大声を出して、ソファにもたれかかった夫を、ソフラスは驚いて見た。

「貴女が愛しているのは私の器だろうっ!」
「なっ……なんですって!?侮辱と受け取りますわよ!」

 ウィンレオは疲れたように言葉を紡いでいた。無意識のうちに、彼の言霊が呪縛と化してソフラスを戒めていた。決して器の小さい方でないソフラスでも、それを解くことはできなかった。それほどにも王の力は絶対なのだ。

「……君は俺の器を愛しているんだ、俺ではなくてなっ!」

 口調が変わった。そしてそれは、親しい者の前で曝け出す、ウィンレオの言葉だった。しかしウィンレオは首を横に振り、息を整えた。

「……君の言う通り、私はユアファを愛している。ユークラフを愛している。たとえ二度と会えぬとも――」

 ウィンレオが苦痛に顔をしかめた。確かに感じてしまうのだ、ユアファの匂いを――。

「二人とも俺を愛してくれていた。二人はな、私を〝ウィンレオ〟という名で呼んでくれたのだよ。二人は、王の私ではなく、ウィンレオという俺を愛してくれていた」
「わ……私の知る限り、ユークラフはクロリスと呼んでいましてよっ?」

 ウィンレオは力なく笑った。

「表ではな――彼女は私に心を開いてくれていたさ」

 ウィンレオは思い出していた。

 友を失い、最愛の人に出会った日々――。
 そして、自分を愛し、そばで支えてくれた美しい人――。それは二度と帰らぬ日々だった……。