幻影都市の亡霊

「何も無い、場所ってのは語弊があるよな。消された場所だ」
「知ってるのかっ? ここで何があったのかっ!」

 少年は反射的に叫んだ。男は、面白そうに少年を見て、

「座ればいいじゃないか」
「…………」

 少年は、男の近くに立った。背が、高い。少年は背の低い方ではない。それでも男の頭は少年よりも頭二つ分ほど高い。そして、座った。男も座った。風が吹く。

「ここで、何があった……?」

 少年は訝しげに問うた。

「亡霊」

 男は短く言った。少年は口を閉ざす。

「亡霊を、知っているか、美少年」

 美少年――その言葉に、少年の片眉が跳ね上げられた。明らかに気分を害した。その様子を見て、黒い男はにたりと笑う。

「その呼び方は、好きじゃない」

 少年は言い切った。黒い男はさらに面白そうに、

「普通、言われて悪い気はしないはずだ。第一、お前は充分美少年だぞ」

 その言葉に、少年はさらに眉をしかめた。黒い男が少年を見る。

「その銀の髪、綺麗だし。その眼、すっげぇ綺麗じゃんか」

 少年の風貌は、美少年に違いなかった。

 流れるような銀の髪は、毛先が外側に跳ねている。それでいて顔の周りは内側に跳ねている。
 小さめの口、整った銀の眉。色白で、すっと通った鼻。極めつけは、瞳だった。右は薄紫色、左は薄青色だった。異色眼だ――。ぱっと見、女の子かとも思うのだが、しかしすらりと伸び、程よく鍛えられた四肢は、彼が男だと主張している。