幻影都市の亡霊

 ラクスはそう言い残すと自分の部屋に戻っていった。エンテルは哀しげな表情を浮かべた。

「すみません、父上……。兄さんは気が立っているんです。自分の器がコロテスに劣っていると知ったときから、ずっとああだ……」

 ウィンレオは微笑むと、エンテルの肩をぽんと叩いた。

「すまないな、お前にまで気を使わせて……」

 エンテルは小さく微笑んで首を横に振ると、一礼して自分の部屋に戻っていった。それを見計らって、ソフラスは立ち上がった。そして鋭く夫を睨みつけた。

「何があったんですの? 貴方はユークラフの想いのためにそんなに疲れていらっしゃる? 現界に置いてきた女のことを想ってそんなに苦しんでいらっしゃる?」

 ソフラスが髪の毛をかきむしった。

 ソフラスは焦っていた。夫が、王が自分のものではなくなることに、ずっと昔から恐怖し続けていた。自分が王に罰せられてしまうのではないかと。隠し続けてきたことが、いつかばれてしまうのではないかと。だからウィンレオには、自分が彼を愛しているのだと主張せずにはいられなかった。

「どうしてですのッ!? どうして私を愛してくださらない? 二度と会えぬ二人にばかり愛をそそいで! クロリス様? どうして目の前にいる私には目を向けて下さらないのですか? 私はちゃんと貴方の近くにいますのよ? こんなにも愛していますのよ!」

 ソフラスの言葉に、理性で抑えてきたウィンレオの感情が爆発していた。それは、近くに彼女の匂いを感じて混乱していたせいもあるかもしれなかった。