「これは、俺が人間だったときの話だ。俺は、彼女を失って自暴自棄になった。もう、わけがわからなくなったんだ。正直今でもよく覚えていない。彼女は俺が自分の知らない時を生きて、自分が置いていかれるんだと言った……だがどう考えても、俺は彼女に置いて逝かれたとしか思えなかったんだ」

 ヨミは静かに、自分の物語を話していた。

 ウェインは何も言わずに聞いていた。正直、良くわからなかった。そんなに、愛する人、というのが。自分だって、母親は好きだ。だが、それだけだった。愛すべき友もいなかったし、愛すべき異性だっていなかった。

 だから、どこか羨ましいと思っている自分さえいたかもしれない。だから、それがどれだけ辛いことなのか――想像することさえ、できなかった。そんな、自分が嫌だった。

「辛かった……。彼女のいない生活。周りの者達が俺を励ます。だが、そんなことでハルミナを失った俺の心は救われるわけがなかった。一ヶ月経ったとき、俺は考えた。亡霊になれば、彼女に会えると、幻界は、死後の世界なんだと……」

 ウェインの胸がどきりと跳ねた。それは、違うのだ。だが、そのヨミはそれを知らないのだ。そんな思いが顔に出たのだろうか、ヨミは自嘲の笑みを浮かべて肯いた。

「どうにかして亡霊になろうとした。とりあえず、フォゲティアに行こうとした。だが何度航海に出ても辿り着けなかった。そこで黒づくめの左眼だけを出した亡霊に出逢った」