「むぅ……」

 夜空に、雲が溢れた。月の光も星の光も、閉ざされた。残される暗闇――。少年は目を見開かせて、座り込んでいた。

「む!」
「ファム!」

 ファムが駆け出した。町の中央であった場所に向かって。少年が慌てて立ち上がって追いかけた。

「っ」

 少年は、はっと足を止めた。雲に割れ目ができて、月の光が一筋、射しむ。ちょうど、円の中心だ。

 猫が、いた。
 不自然なほどに真っ黒な、猫が――。

 ファムが、その猫の一メートル外側を、警戒しながら歩いていた。黒猫は、すっと座って――その様子からはどこか威厳さえも感じられて――。少年は息を飲んでいた。

 そしてゆっくりと、ファムに近づいた。少年の動きに気づいて、ファムは少年の隣までやってきた。少年は、じっとその黒猫を見つめた。雲が流れて光が途絶えた、その一瞬後であった。突如として雲が晴れた。

「っ!」

 青白い半月が顔を覗かせる。夜空を星々が飾り付ける。少年は、それを見た。黒猫がいたその場所に、黒い男が立っていた。ぞわりと、何かが少年の中を駆け抜けた。

〝これは、違う……っ!人間じゃ、ない……〟

 少年は動けずに、それを見ていた。黒い男――そうとしか表現できなかった。黒い長い髪が、闇のような漆黒の髪が、風に流れてふわりとたなびく。男は、無表情に、少年を見とめた。黒瞳が、きらりと光る。少年は、言葉を失った。形の良い黒い眉が、ぴくりと反応した。高い鼻がすっと伸びる。真っ黒な装束を着ている。大きめの形の良い口の、口端が引き上げられる。

「どうした、こんな何も無い場所で」

 男が、低い声で言った。その言葉は、明らかに少年に対してのものだった。少年は、反応できずに、男を見返した。その様子に男は笑う。