「ラム」
びくん、と薄茶とクリームの髪の後ろ姿が震えて立ち止まった。ゆっくりと振り返った先に、その顔があるのを見て焦燥を感じる。
「なんですの、ラクスお兄様。わたくし、今から寝るのですけれど」
金髪を短く整えたきつい顔立ちの男が立っていた。ラムの遥か頭上から空色の瞳が見下ろしている。
「父上と何を話していた」
「……」
ラムはこの腹違いの兄が苦手だった。歳が十も離れているせいもあるだろうか。ラムはその母親も苦手だった。金の髪と緑の瞳を持った美しい人だとは思っていた。だが、どうも荒々しく咲き誇る、棘ばかりを身にまとう薔薇にしか見えないのだ。プライドの高い女性だった。
「ヨミ様がまだ帰ってこないってことですわ。おやすみなさい」
ラムは急いで自室の棟に通じる扉をくぐった。それ以上ラクスは進めない。ここはラムの家族の棟だ。その隣にはラクスの家族の棟がある。同じ城に住む別の家族だ。たとえ父親が同じだとしても、ラムはやはりあの家族を好きにはなれなかった。
「お兄様」
「また父上の所か?大概にしておけよ、父上も忙しいんだ」
出迎えた青年が言った。ラムと同じ髪を持つ青年だった。少し長めの髪を、左目の方を隠すように流している。長さがないので左目は隠れてはいないが。瞳は母親と同じ水色だった。四歳離れたラムの兄。この棟には二人しか住んでいなかった。そこに居間があり、三つ分の寝室があった。ときどき父が訪ねてきてくれる。
「ヨミ様、遅いでしょう?一年も出て行ったきりなんですもの」
青年は苦笑した。

