幻影都市の亡霊

「その言葉は、貴方が発して良い言葉じゃないと思うのは、私だけなのかしら……。でも、貴方が何と言おうと、私には関係のないことよ」

 瞬間、ツキミが不気味な笑みを浮かべ、歪んだ。ウェインが目を見開くと、白い亡霊はウェインの目の前にいた。

「っ」
「消えなさい」

 次にウェインが目を開けたとき、ツキミとウェインの間には、輝く巨大な光の壁があった。それはシクラの手だった。

「……あら」

 シクラの左手の、肩から下が巨大に変化している。光を帯びて、人の形をしていない。雷が無理矢理手の形をしているような――。

「あっち行け」

 シクラがぶすっと、短く言った。ツキミの振り上げた右手――その手は太い針のようになっていた。それが鋭く振り下ろされた。だが、シクラは目を見開くと、獣のような動きで雷の手を振るった。動かすたびに轟々と響く。ツキミが次の攻撃を仕掛けようとしたとき、逆にシクラが仕掛けていた。ヨミはただそれを眺めていた。茫然として動けないでいた。

「あっち行けって言ってる」

 シクラは己の手を横薙ぎに振り払った。

「ぅぐっ」

 ツキミはそのまま吹き飛ばされた。そして、ゆっくりと身を起こすと、

「まだ……力が完全じゃない……」

 そして、静かにヨミを見た。

「貴方が幸せになること、私が許すなんて、思わないで。そう私が、ね」

 白い亡霊は――静かに言い残すと、その場から風を残して消えた。

「……」

 ぎゅいんっ

 シクラの巨大化した手が元に戻り、彼女は何回かわしわしと左手を開いたり閉じたりした。つと、ウェインの頬に汗が伝う。だが、焦燥を感じるよりも先に、

「ヨミっ!」

 ウェインは怒鳴っていた。そこには呆けて突っ立っている黒い亡霊。

「……」
「俺を導くと言っただろうが!俺を守れなくてどうする!」

 ウェインは怒っていた。自分は今、明らかに得体の知れない力で命を狙われたのだ。それなのに、この黒い亡霊は――、

「彼女に任せてどうするっ! あの亡霊の言葉に動揺したのはわかったが、そんなことで何が王を導くだっ! そんなことじゃあ、誰一人、好きになった女一人導けないだろっ!」
「っ」

 ヨミの顔に、明らかな衝撃が浮かんでいた。そのことに、ウェインの方が気後れした。