幻影都市の亡霊

〝ここは、幻界……? どうして? どうやって……〟

 勝気そうな青の瞳が、不安そうに歪められている。この女には珍しいことだった。大魔術師ユアファ=ストロール、武勇の代名詞のような女だった。だが、自然と杖を握る手にも力が入ってしまう。

〝……ウィン……〟

 その名を、思い浮かべようとして――女はすぐに思考を止めた。顔を歪め、左手で前髪をかきあげる。

〝頼っちゃ、駄目だ。あの人に頼っちゃ駄目なんだ……忘れられなくなるから。でも、ここは幻界……あの人の住む場所。彼が、いる……〟

「ユアファ、大丈夫かい?」

 初老の女が話し掛け、ユアファははっとした。

「ごめん、大丈夫。カルサおばさん、早く行ってきて」

 ユアファは言った。不安をあおるから、弱っている自分を見られたくはなかった。自分はしっかりしていなければならないと思った、町人の前では――。

「あ、ああ……」

 初老の女は駆け去っていって――……。ユアファはその場にしゃがみこんだ。

「ウィ……レオ……」

 それでも、ユアファの口が、心が止まらなかった。

「ウィンレオ……っ!」

 風が吹いていた。

 その風が教えてくる。
 あの人がここにいるんだと。ここは、あの人の国なのだと。

「ウィンレオ……」

 会いたいのだ。とても、会いたい。

 十八年、息子が育って〝父親〟の面影を帯びるにつれて、二度と会えぬ男へと想いが募っていった。息子の右目に、この国を統べる者の面影を見ずにはいられなかった。